目の検査と重力波の測定
サイエンスエッセイ6
先日、10数年ぶりに眼科の健診を受けました。以前にはなかった検査機器がありました。
望遠鏡や顕微鏡の接眼レンズのようなものを覗き込むと赤い十字が見え、細い赤い線が視野を横切っていきます。明らかに網膜をスキャンしていました。
で、検査結果を見せてもらってびっくり。何と「網膜の断面の画像」が撮れているのです。表面をスキャンして断層画像が描けるのが不思議でした。早速検索するとこれはOCT(optical coherence tomography:光干渉断層計)というのだそうです。画像は例えばhttps://www.hirataganka.com/inspection/oct/ などにあります。ここ10年ほどで普及した機材だそうで、どうりで見たことがないわけです。
分解能は最大で5μmほど。つまり5/1000mmの違いがわかるというすごさ。どうしてこんなに分解能が高く、断層で見えるのでしょう。詳しい原理はメーカーのホームページを見ていただくとしてhttps://www.systems-eng.co.jp/column/column01.html 簡単に言えば、光の波の重なり合いを見ているのです。2つの光源から同時に光が出たとします。2つの光源から同じ距離の場所では、光の波は同じ形に届きますから光の波を重ねると2倍の強さになります。2つの光源からの距離がずれていると、光の波は2倍にはなりません。時には打ち消しあいます。つまり光源からの距離によって光の強さが変化します。

例えば上図の赤い波と青い波を重ねるとき、2つの波が同じ距離を通って届いたなら、2つの波はぴったり重なるので一番高い所は赤の高さ1と青の高さ1が重なって、重なった波を表す緑の高さは2になります。上図では赤と青がずれているので重なった緑の一番高い所は2よりも低くなっています。そこで緑の波の高さが2になるように赤い波を動かすと、その動かした距離から自分と2つの光源までの距離の差がわかります。
実際にはどうしているかというと、メーカーのホームページの図にあるように、1つの光源からの光を鏡で2つにわけ、一方は鏡で反射させて基準にし、一方は網膜で反射させます。網膜は10層の膜が重なってできていて、その層の境目ごとに光を反射します。つまり網膜で反射させた光は10種類のずれた波になって戻ってきます。この10種類の光と基準の光を重ねて強め合ったり弱め合ったりさせてずれの大きさを測ります。そこから10層それぞれの厚さを求めています。
例えば、基準と第1層は5cmずれていました。基準と第2層は8cmずれていました。基準と第3層は9cmずれていました。とすると、第1層の厚さは8-5で3cm、第2層の厚さは9-8で1cmとなります。光の波長でこれを求めているので分解能が非常に高くなります。
と、ここまではOCTの原理の解説なのですが、これが面白いことに岐阜県にある重力波望遠鏡KAGRAと同じ原理なのですね。https://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/KAGRA_Nobel/data/KAGRA2_panel.pdf
これはレーザー干渉計といい、微妙な距離の差を測定することができる機能を使って、いろいろな方面で利用されています。
ちなみに健診結果は「問題なし」でした。