海洋の酸性化は意外に複雑1
サイエンスエッセイ 7
気候変動の原因とされる温室効果ガス。その中でも二酸化炭素の削減が叫ばれています。この二酸化炭素、温室効果だけでなく海に溶けて海洋の酸性化を進めています。海洋が酸性化すると、サンゴや貝殻をもつ貝、有孔虫と呼ばれる殻を持った微生物などが育ちにくくなると言われています。
サンゴや貝殻と酸というと、小・中学校の実験で石灰岩に塩酸をかけると石灰岩が溶けて二酸化炭素が発生するものがありました。石灰岩はサンゴや有孔虫がぎゅっと押されてできた石でその主な成分は炭酸カルシウムCaCO3です。
CaCO3+2HCl→CaCl2+H2O+CO2
塩酸で石灰岩は溶けます。二酸化炭素が水に溶けると炭酸という酸になりますが、炭酸ではサンゴや有孔虫の成分である炭酸カルシウムは溶けません。
CaCO3+H2CO3→?? 化学式で書くとイメージがわくでしょうか。これでは反応しようがありません。
ということは、二酸化炭素が海に溶けて、海が酸性になってその酸でサンゴや有孔虫が溶けちゃうのではないのですね。
では、海洋が酸性化するとどうしてサンゴなどは育たなくなるのでしょう。
そもそも海にはナトリウムNa+やカルシウムCa++、炭酸イオンCO3--(ここで+はプラス1価、-はマイナス1価であることを示します)などはたくさんあるので、炭酸ナトリウムNa2CO3や炭酸水素ナトリウム(重曹)NaHCO3が溶けています。これらは水に溶けてアルカリ性を示すので、海は弱いアルカリ性です。そして水に溶けたこれらはイオンになっています。
Na2CO3はナトリウムイオンNa+が2つと炭酸イオンCO3--が1つになります。Na2CO3→2Na+ + CO3--
NaHCO3はナトリウムイオンNa+が1つ、炭酸水素イオンHCO3-が1つに分かれます。NaHCO3→Na+ + HCO3-
そして、炭酸イオンと炭酸水素イオンの間では水素がくっついたりはなれたりして行ったり来たりしています。個々のイオンは変化しますが、たくさんあるイオンでは全体としてバランスがとれてある割合で炭酸イオンと炭酸水素イオンが存在しています。
H+とCO3-- 行ったり↔来たり HCO3-
このとき、H+がふえるとバランスは右によります。つまり炭酸水素イオンHCO3-が増えます。一方、H+が減ると左によって炭酸イオンCO3--が増えます。
ここに二酸化炭素CO2が溶けてきます。〈続く〉